プログラム紹介
大会会長講演
「力動心理学における意志」
講演:花井 俊紀(PAS心理教育研究所・吉祥寺心理教育研究所・大妻女子大学非常勤講師)
人は自分の求めるものを現実の中で手に入れ、自らを充足させて生きている。我々が生きる現実はいつも我々が望むように動いてくれるわけでなく、むしろ望むように動かないことのほうがほとんどであり、求めるものを手に入れることを困難にさせる。困難を越えて、求めるものを手に入れることを可能にするのが「意志」である。力動心理学における意志は、欲求充足の目標を定め、その達成に向けて自らのエネルギーを束ね、ベクトルを持たせ、維持し、自己内の様々な資源を使って行動することへ自らを導く自我機能を指す。
ひきこもり、自己破壊、行動化、慢性的な適応問題、繰り返しの逃避などを表す患者群、壁を超えられないプロや燃え尽きた経営者たち、彼らに意志を隠していたり、意志で動いていないことが多く見られる。なかなか変化しない彼らも意志を持ち、意志を動かし始めると、改善に向かって動き出す。意志を持った青年の一例やひきこもり改善事例などを通して、意志とは何か、意志の成立に必要な条件は何か、心理療法においてどのような介入が可能か、ここまでわかっていることを提示し、大会の口火を切りたい。
大会基調講演
「“我慢できないんだ、依存症なんだ。” 真か偽か?」」
講演:ラルフ・モラ(個人開業/メリーランド大学教授)
この講演は、行動化や依存症を表す患者に対する心理療法における意志の果たす役割に焦点を当てる。古典的フロイト派の決定論的な観点に反対し、両立主義を支持する議論が展開されるだろう。後者は、決定論と選択の自由の双方が共存すると考えている。
自由意志が存在するか、存在しないかについての患者の信念に関する研究は、自分自身の行動に選択の余地がないと信じることが有害な影響をもたらすことを示している。依存症の治療に関連する問題を、選択する能力を重視するだけでなく、この能力を回復するための発達の機会を提供する要素を備えた依存症治療(を提供する)の必要性に基づいて、提示する予定である。この点において、完全な禁欲は治療の終着点とは見なされない。
セラピストである私たちは自分自身を包括的に見る必要がある。依存症の治療には、嗜癖行為に関する自分自身の信念と偏見だけでなく、自由意志が果たす役割についての理解にも目を向けることが求められる。選択の自由は発達に関わる側面を持ち、依存症がどのように発症するか、そして治療的に何が必要かについて、明確で現実的な視点を提供することができる。私は、私たちの人生において選択する自由を持つ時、私たちがこの世界で互いに負っている責任を受け入れることもできると信じている。
教育講演
「私のカウンセラー修行」
講演:村山 正治(九州大学名誉教授・東亜大学客員教授)
臨床体験からの学び ― 私自身になっていくプロセス
学びの体験
Ⅰ 学部・院生体験
- 4年間の迷いの森の彷徨
- 教師たちとの出会い
- 心理的意味
- カウンセラーを選択
Ⅱ 個人カウンセラー体験
- 登校拒否中学生の訪問面接
- 非行中学生の失敗面接
Ⅲ キャンパスカウンセラー体験
- カウンセラーの役割変化・学校コミュニティ論の視点
- 統合失調学生との臨床-「治す」から「支援」へ
- 他職種との信頼関係とネットワークの構築
- 精神科医との連携・協力
- 学生相互の支援力の発見
- EGの活用
- 大学紛争との出会い カウンセラーと社会との関連
- 福人研の創設
Ⅳ ロジャーズ研究所体験
- 挑戦性
- 時代精神への問い
- セラピーから社会変革へ
- EG体験・ラホイアプログラム
Ⅴ 九重EG体験
- ファシリテーター体験
- ナンバーワンよりオンリーワン
- 教育より耕育
- 弱さの受容とそこから生まれる強さ
Ⅵ 自分自身になる縦糸・横糸
- 人・書籍との出会いは、人生の可能性を拓く
- ネットワーク、繋がりを大切に生きている
- 人生、無駄になることは何もなく、つながってくる不思議さがある
- 私たちは一人一人別々の存在である
- バラバラで一緒
- 人それぞれわたしという誰にも出来ない経験をしている
- 自分自身になるとは、絶えず変化を受け入れワクワクしながら厳しくも楽しくもある生を毎日生きていくプロセスである
- これを“静かな革命”と私は呼んでいる。
全体参加力動的心理療法ワークショップ
「事例性と疾病性:事例性成立に向けての面接展開」
コンダクター:小谷 英文(PAS心理教育研究所理事長/国際基督教大学名誉教授)
マスターセラピスト(デモンストレーション):ラルフ・モラ(個人開業/メリーランド大学教授)
コメンテータ:
セス・アロンソン(ウィリアム・アランソン・ホワイト研究所)
牛島 定信(市ヶ谷ひもろぎクリニック)
近年、来談するが事例性が成立せず心理療法契約をすぐには結べない患者が少なくない。助けを求められない、何を助けてほしいのかはっきりしない、自分には問題はなく周囲の人間に問題があると訴える、助けは必要としているが助けを拒否するといった人々である。事例性(caseness)とは、「なぜ・いつ・どこで・誰によって事例とみなされたかという諸要因の総合」(田中, 1996)である。力動的心理療法においては、来談した人が自分で自分の問題を認めるという事例性を持ち、そしてその問題に自ら取り組む意志を持つことが、心理療法契約を結ぶために必要となる。そして、これは患者側の問題だけではない。力動的心理療法はセラピスト–クライアント両者の契約によって始まるものであるから、セラピスト側がClの事例性を受け入れた時に契約作業は始まる。そこにクライアントの問題に取り組む意志をケースフォーミュレーションによって明確にしなければならない。
上記の患者群が力動的心理療法を利用するためには、彼らの事例性の成立を助け、彼らが問題に取り組む意志を持てるように時間発展を助ける必要がある。事例性成立のためには何が必要なのか、どのように介入できるかを追求することがこの大会全員参加ワークショップの目的である。ワークショップでは事例性の成立が困難な事例を各自持ち寄り、一対一でのロールプレイ演習を行う。ワークショップの中で詰まったところで、マスターセラピストにデモンストレーションを行っていただき、マスターセラピストはその時どうするのか、学ぶことができるだろう。これらを行う中で、大会テーマの「意志」がどのように関わってくるかも検討を行う。
また事例性と別に、疾患の存在が認められることで問題とされるのが「疾病性(illness)」である。専門家に病理にかかわる問題があると言われることが、自分で自分の問題を認めることを助ける可能性があり、妨げる可能性もある。それは心理療法を求めるきっかけになると同時に回避する可能性も生む。事例性と疾病性、これらの関係についても検討を行う。
エドワード・ピニー記念講演
「世代を渡す橋:スラヴソンからシャイドリンガーへ、そして今日へ」
講演:セス・アロンソン(ウィリアム・アランソン・ホワイト研究所ファカルティ)
青年を対象とした療法としては、経験的に集団療法が最適のものとしてその効果が証明されてきた。子どもや思春期の集団療法の歴史を、S.R.スラヴソンの指揮下でニューヨークにおいて行われていた最早期を発端に描いてみよう。活動集団療法と当時呼ばれていたものは、ソウル・シャイドリンガーによってさらに発展、応用された。
本講演では、グループワークの現代的応用に至るまでの、彼らをはじめとした実践者たちの貢献を描くこととする。
ランチタイムセッション/ポスター発表
集まった参加者が、臨床家として、語りたいこと、議論したいこと、聞いてみたいことなどを自由に持ち寄り、話したいことやテーマで集まりグループを作り、語り合う時間です。
講演を聞いて刺激されたこと、ワークショップに参加して話したくなったこと、研究についてより議論したいことなど、大会プログラムの刺激を受けて語りたいことを語りましょう。
臨床実践をしながら日頃考えていること、議論したいこと、ゲストファカルティの先生と話してみたいこと、聞いてみたいことなど、心理療法の専門家が集まる機会をご活用ください。
ランチタイムを兼ねて行いますので、ぜひ昼食を持参してご参加ください。
懇親会
「Dynamic Dinner」
一日思い切り働いてエネルギーを使った後は、旨いものを食べ、旨い酒を飲み、仲間と語らい、新たな活力をチャージしよう。
そして、仲間と今ここに共にあることを喜び、愛を味わおう。
上がった熱を感じたら、その場で皆に向けて言葉に乗せて出してみよう。
仲間の中にいる自分の存在を強く感じるはずである。
IADPの懇親会は、単なる形式や社交の場ではない、ダイナミックなグループである。
会員だけでなく、非会員の参加者、初参加の方もぜひご参加ください。
会場:上海庭 九段南店(東京都千代田区九段南3-2-12 上海庭ビル1~3F)
参加費:5,500円
全体ケースセミナー
コンダクター:小谷 英文(PAS心理教育研究所 理事長/IADP理事長)
事例提供:花井 俊紀(吉祥寺心理教育研究所/大会会長)
IADP年次大会のクライマックスが全体ケースセミナーである。一つの事例(ケース)を参加者全員で検討し、そのケースを前に進めることに挑戦する。参加者は、ベテランも初心者もファカルティも全員そのケースのスーパーヴァイザーとなって、ケースに参加し、アセスメントを行い、ケースフォーミュレーションを作り、ケースと向き合う。その中で、自身の臨床能力をブラッシュアップすることができ、事例から学ぶことができる。ひとりひとりが一つのケースに対して最大限自分の臨床能力を使い、それぞれの仮説が会場を飛び交い、互いに刺激しあうことで、事例の理解が深まる。大会期間中に学んだ知識、理論、技術などをフルに使って、3日間の成果を確認しよう。