訓練ワークショップ紹介

訓練という言葉に馴染みがあるだろうか?力動的心理療法を実践する上で必要な理論・態度・技法技術は、ただ技法書・手順書を読むだけでは身につけることはできず、実際にその理論・態度・技法技術を繰り返し使い、身になじませ、鍛えていく訓練が必要となる。日本のみならず国際的にも「研修」は多くあるが、この「訓練」を得られる機会は多くない。

IADP の年次大会では毎年必ず訓練ワークショップを開催している。ワークショップは、職人の仕事場に入り一緒に仕事(work)をする中でその職人の技や知識、態度を学び、自らを鍛えることができるという職人的なものである。会員もそうでない方も、初心者もベテランも分け隔てなく一同に集まって、心理療法の理論・態度・技法技術を身につけて、磨くことができる。

第 27 回年次大会では、国内外のトップの7名の臨床家にそれぞれの特色を活かしたワークショップの開催を依頼した。どれも心理療法実践に役立つエキサイティングなワークショップとなっている。

自分のできなかった技法・技術や態度を繰り返しの訓練の中で身につけて臨床で実践できたときの心地よさはとても大きなものである。仲間と共に自らの臨床を鍛えることの楽しさをぜひ体験しよう。

日時:11月4日(土)13:45-17:45(4時間)

※ 大会申込時に参加希望のワークショップを第3希望まで入力してください。
※ ワークショップには定員が設けられているものがあり、こちらは先着順となっています。第1希望のワークショップが定員を超えた場合、第2・3希望のワークショップの参加となります。お早めにお申込ください。

対人援助職のための応答構成ワークショップ

トレーナー:
能 幸夫・吉田 愛(PAS心理教育研究所)

応答構成とは、架空の事例の面接場を用い、その事例の発言を自分がどう捉え、感じ、どう応えるのか、自分らしい応答を磨いていく訓練法です。
個人の変化に人間関係という要因が役立つことは明らかですが、変化に役立つ「正解」の応答はありません。Jazzセッションのような、援助者と被援助者の間の生きたやり取りが、被援助者が自分で自分を推し進める・支えることの助けにつながります。つまり、被援助者の変化のためには、援助者自身もセッションのメンバーの一人として、しっかりと存在する必要があるのです。 
このワークショップでは、ワークシートを使いながら、クライエントの発言内容や気持ち、それと援助者自身の気持ちを分け、そのうえで自分らしい応答を磨いていきます。 また、自分のあるいは仲間の応答を用いて、ロールプレイで、その応答の実際を体験してみましょう。
応答構成を通して、専門家としての自分自身という資源を存分に使う楽しみをつかみながら、自分の応答を磨いていきましょう。 

定員:12名

対象:臨床経験年数は問わず。初学者からベテランまで。対人援助職を目指す大学院生も可。

新しい事例検討法PCAGIP(ピカジップ)の理論と研修

トレーナー:
村山 正治(九州大学名誉教授・東亜大学客員教授)
村山 尚子(心理教育研究所赤坂 主宰)

Ⅰ. PCAGIPの新しい視点

①事例が主役でなく、事例提供者が主役、②場はコミュニティ、③参加者はリサーチ・パートナー、④心理的安全なグループ体験、⑤多様な視点の創出、⑥理解が中心、⑦結論よりヒント、⑧記録板書によるプロセス・情報の可視化・共有化、⑨皆で創る事例物語、⑩事例提供者・事例を巡る援助ネットワークの視覚化

Ⅱ. 特徴

定義
1)簡単な事例提供資料からファシリテイターと参加者が協力して、参加者の力を最大限に引き出し、その経験と知恵から事例提供者に役立つ新しい取り組みの方向や具体策にヒントを見出していくプロセスを学ぶグループ体験である、2)構造:ファシリテイター2名・記録者2名・資料提供者1名・メンバー5名、全10名程度で1グループ、3)情報共有の黒板二枚、4)セッション中はメモを取らない、5)事例提供者を批判しない、6)結論は出なくてもよい、ヒントが出ればよい

実施手順

1)200字以内の事例資料を用意する
2)発言の多様性を確保するためにメンバーは一人ずつ順番に質問して、事例提供者とその状況を理解することに徹する
3)メンバーが気になったことを尋ね、事例提供者との応答は、記録係が黒板にとる
4)二巡したら、情報の整理をする
5)ファシリテイターは多様な視点が出てくるように雰囲気を創る
6)2時間程度で全体像がみえる

定員:10名

カウンセリング・グループとセラピィ・グループ体験

トレーナー:髭 香代子(PAS心理教育研究所)

カウンセリングとサイコセラピィは、どう違うのでしょう? グループになると、それぞれの特徴はどう出るのでしょう?
このワークショップでは、それぞれが臨床家であるメンバーとして、グループに参加します。カウンセリング・グループとセラピィ・グループのセッションをそれぞれ行い、カウンセリング・グループとセラピィ・グループがどのように違うのか、メンバーとしての体験を通して学びます。
カウンセリングとサイコセラピィ、クライエントにとってはそれぞれがどのように違って体験されるのか、それぞれの技術がグループの場でどのように使えるのか、グループにどっぷり浸かることでつかみましょう。
カウンセリングとサイコセラピィの違いに関心がある方、グループ・セッティングに関心がある方、体験自我と観察自我をフル稼働して臨んでください。

定員10

対象:大学院生、初心者からベテランまで、グループに関心のある臨床家

治療計画ワークショップ

トレーナー:ラルフ・モラ(個人開業/メリーランド大学教授)

このワークショップは、治療を決定するためのフォーマットを提供する。まずはじめに、治療に関連する要因とプロセスを提示する。これらは、患者の生物心理社会的な諸側面に焦点を当てるものである。加えて、主たる問題が発達固着の問題なのか、発達の遅れの問題なのかを査定する必要がある。そのために必要な情報を集めるための方法を提示しよう。これらの手法には、患者の人生の文脈の中に問題を位置づけるための、さまざまな経歴聴取の、そして認知的・情緒的な技術が含まれる。複数の矛盾する目標をどのように理解し、計画するかについても、議論される。また、今回の年次大会の主眼である「意志」に沿って、患者の変化可能性についても議論し、治療計画に組み込むこととする。
それに続き、提示される三つのケースについて、参加者は小グループに分かれ、治療計画を立て、発表し、批評や分析を行い、ワークショップにおいて治療計画を発展させていく。実際、このワークショップは、治療計画についての理論的概観、患者の強さと弱さを考慮に入れて問題の特性を査定するための特定の技術や手法、そして、治療計画において自信を得て、技術を磨くために役立つ実践演習に一緒に参加する機会を提供する。

定員15

「かいじゅうたちのいるところ」:青年期心理療法

トレーナー:セス・アロンソン(ウィリアム・アランソン・ホワイト研究所ファカルティ)

青年期心理療法の研究によって、この時期の発達課題は、アイデンティティ形成、身体変化の自己概念への組み込み、親密性と分離の発達を含め、すべて明らかになっている。アンナ・フロイト、ピーター・ブロス、エリクソン、そして現代クライン派、ウィニコット、ローワルドといった分析家はみな、青年期心理療法における課題の理解に貢献してきた。このワークショップでは、治療プロセスを通してこれらの課題にどう取り組めるのか、また、転移―逆転移と、成長促進的なその役割を探求する。

定員:なし

WE CAN CHANGE

Do what to do, Quantum Intervening

その時どうする;量子力学的介入分析法

トレーナー:小谷 英文(PAS心理教育研究所 理事長/IADP理事長)

統合失調症ではなく、精神分裂病になってみよう。量子力学的変化への近道はそこにある。変化を妨げる抵抗は、クライアントの過去ではない、未来に対する不安でもない、ましてや目下の適応問題でもない。妨げるは、セラピスト自身である。人は無意識の世界で多くの自分を生きている。転移対象との間の世界、今の自分の刺激対象との間の世界、希望や野心の未来に蠢く自分の世界、多世界に生きているのが我々「人」である。私が変われば対象も変わる。セラピストの私は、クライアントの転移の世界に自らも転移する。それだけでなく、今の刺激対象との世界にも、未来の野心の世界にも同じように転移する。転移は難しくない。が、精神分裂病様状態を超えて、選んだ一つところの世界にとどまることは容易ではない。そこに必要な能力が能動的な分裂機制と置き換えの機制である。量子状態のリビドーが、ノイズを最小化して時間発展するところへの転移に、最適のクライアントの変化がある。それを誰よりもまずセラピストが体験的に知る必要がある。
Come with your clients. We will exercise Quantum Change interaction with our clients.

定員:なし

対象:大学院生、初心者、中堅、上級の人格変化を追求するセラピスト

力動的アセスメント入門―欲動展開理論を用いて

トレーナー:橋本 和典(国際医療福祉大学/PAS心理教育研究所)

アセスメントを求められても、現象の記述、あるいはクライアントが言ったままを伝え、「それではアセスメントになっていないよ」と言われる経験はないだろうか?あるいは、医療モデルの延長で、相手のネガティブチェックばかりに終始し、変化可能性やポジティブチェックができない問題には陥っていないだろうか?力動的アセスメントは、フロイトの力動論を基盤にしている。あまりにも玄人仕事がゆえに現代では遠ざけられているが、人の心の再生、人生の充実・創造のための心理療法には欠かせない査定用具である。対象となる個人の言動の内奥にあるエネルギー(欲動―欲求-願望-意志-行動・表現)が潜在し、どうすれば抱えるエネルギーを活かし元気に人生を充実させることができるのか、これを読み解くのが力動的査定である。本ワークショップでは、力動理論を現代的に再編した欲動展開理論(小谷, 2008;2018など)を用いて、基礎からの力動的アセスメント能力の各人のレベルアップを狙うことを目的とする。内容は、小講義、ロールプレイ、参加者の自験例による力動的査定演習からなる。皆さんの積極的な参加を待っている。

※参加者は、力動的査定を学ぶための自験例(適当なケースがない場合は、書籍や論文から一事例を探してもってくる)を用意すること。

定員:20名

対象:大学院生、初心~中堅まで